コーデック変更前に実施したい比較試験|音質・遅延・帯域をどう評価するか

「新しいコーデックなら音が良くなるはず」「ビットレートが低ければ回線に余裕ができるはず」。こうした期待は、導入前の比較試験で確かめたい仮説です。採用を判断するには、音の聞き取りやすさ、会話の遅延、通信量、接続の互換性を分けて評価します。

この記事では、既存方式を候補方式に変更するときの試験設計を説明します。表はそのまま合格基準にするものではなく、自社の構成と業務に合わせて項目を作るための例です。

1. 最初に「何を改善したいか」を一つの文にする

例えば「在宅担当者の会話で、数字の聞き返しを減らしたい」「外部回線の必要帯域を見直したい」「SBC更改後も同じ業務を維持したい」のように目的を具体化します。目的が違えば、優先する測定項目も変わります。

そのうえで、改善してよい項目と悪化させてはいけない項目を決めます。帯域が減っても、接続できない端末が増えるなら採用できない場合があります。音が聞き取りやすくても、発話の往復が遅くなって応対しづらいなら別の対策が必要です。

コーデックの基本的な特徴は、G.711・G.729・Opusの比較で確認できます。試験では、その特徴が自社の経路でどう現れるかを測ります。

2. 固定する条件と、変更する条件を分ける

端末、ヘッドセット、試験音源、入力音量、通話経路、取得位置、評価方法をそろえます。コーデックを変える際にビットレートやパケット化間隔も変わるなら、値を記録し、「方式だけの比較」なのか「採用する設定一式の比較」なのかを明示してください。

同じ条件で旧方式と候補方式を試験し、聞き取り、遅延、通信量、業務操作を記録する試験机と比較表。
図1:音源・端末・経路をそろえて比較し、同じ確認項目を両方式で記録します。表は記入用のイメージで、測れない項目は未確認として残します。

同じ比較を複数回行い、実行順や時間帯の違いも記録します。実環境では背景の通信量が変わるため、旧方式を一度、新方式を一度だけ測って差を結論にしないことが大切です。変換を含む構成と含まない構成は、別の条件として扱います。

条件の例 旧方式 候補方式
音源・端末・取得位置 同じ条件に固定
コーデックと設定 現在の値を記録 候補の値を記録
ネットワーク条件 通常時/管理した劣化条件を同じ組で比較
呼量 少量/想定するピークを段階別に比較

3. 音質は、スコアと重要な言葉の聞き取りを分ける

基準音声と通話後の音声を比較する場合は、測定方式、版、対象の音声帯域、音源、レベル、方向を記録します。異なる評価方式の値をそのまま並べたり、製品画面に同じ「MOS」と表示されているだけで同じ物差しと判断したりしないようにします。

主観評価の基本はITU-T P.800、客観的な聴取品質予測の規格例はITU-T P.863で確認できます。実際に採用する手法は対象音声と試験目的に合わせます。手法の違いは、MOS・PESQ・POLQAによる音声品質評価も参考になります。

コンタクトセンターでは、予約日、金額、固有名詞など、聞き誤ると業務に影響する情報も確認します。平均スコアに加え、無音・切断・測定不能の件数を残し、測れた呼だけで結果を良く見せないようにします。人が試聴する場合は方式名を伏せる、提示順を入れ替えるなど、期待による判断の偏りも減らします。

4. 遅延は、会話の片方向とネットワークの往復を分ける

音が出てから相手に届くまでの片方向遅延には、符号化、パケット化、ネットワーク、受信バッファ、再生などが関係します。pingなどの往復時間を2で割っただけでは、これらを含む音声遅延の実測にはなりません。片方向の伝送時間はITU-T G.114が扱うテーマです。

試験では、どの位置からどの位置まで測るか、時計同期や音声による測定をどう行うかを先に決めます。測定器の条件をそろえ、必要なら短い応答のやり取りや同時発話も確認します。聞き取りのスコアが良くても、会話の間合いまで良好とは限りません。

5. 帯域は実際の通信量、負荷は段階別の結果で見る

音声データのビットレートに加え、ヘッダー、暗号化、トンネル、パケット化間隔を含め、見積もる区間の送受信量を測ります。可変ビットレートや無音抑圧を使う場合は、会話中と無音時、平均と短い時間の増加を分けて残してください。

見積もりの方法は、コーデック・ヘッダー・同時通話数から帯域を計算する方法で整理しています。ネットワーク以外にも、端末や変換装置の処理能力が制約になる場合があります。

最初に少量の通話でシナリオを確かめ、その後に関係者が認めた条件で同時通話を増やします。接続成功率、処理負荷、音声、遅延を同じ段階で記録します。負荷試験で音声品質まで確認する理由も参考に、接続本数だけで合格としないようにします。

6. 比較表には、不合格と未確認を残す

評価する軸 記録する内容 判断の考え方
接続と操作 双方向通話、保留、転送、DTMF、録音 必要な業務操作を維持できるか
聞き取り 評価方式、分布、重要語句、測定不能 改善点と悪化する条件を説明できるか
遅延 測定区間、方向、値のばらつき 応対で許容する条件を満たすか
通信量・処理負荷 方向別の通信量、パケット数、装置負荷 ピーク時の余力もあるか
例外条件 非対応端末、迂回経路、再接続 切り戻しや代替手順が成立するか

例えば候補方式で平均通信量が減っても、特定の転送先で片通話が起きたなら、その条件を切り離さず結果に残します。採用、対象を限定して採用、設定を修正して再試験、見送りのいずれかを、確認した範囲に基づいて判断します。未実施の経路は未確認と記載します。

7. 採用後の監視と切り戻しまで準備する

試験に合格した設定、対象端末、接続先、既知の制約を記録し、変更後に見る項目と担当者を決めます。旧設定へ戻す条件・手順も用意してください。実運用の苦情件数だけでなく、利用端末や経路が変わったかも追うと、試験時との差を調べやすくなります。

音声を比較する方法は、Software AGDによる音声品質評価、呼量を再現する試験はCruncherによる負荷試験で紹介しています。必要な測定方式や対応範囲は構成ごとに確認します。コーデック変更の比較試験を相談する際は、変更目的と旧・新の設定、対象経路をお知らせください。

参照確認日:2026年10月5日。試験表と進め方は独自の設計例で、規格認証や製品の対応機能を保証するものではありません。

コンタクトセンターの品質・負荷試験についてご相談ください Genesys Cloud / Amazon Connect / Cyara に対応
無料相談・お問い合わせ