音声遅延はどこで発生するのか|片方向遅延・RTT・会話品質

音声技術の基礎|第10回

音は途切れず聞こえるのに、会話が重なる、返事を待ちきれない。このような場合は音声の遅延が関係している可能性があります。この記事では、ネットワークの応答時間と、口から耳までの音声遅延を区別します。

1. 音声遅延は複数の時間の合計

話した音が相手に届くまでには、収音、符号化、パケット化、ネットワーク伝送、受信バッファ、復号・再生の時間がかかります。ネットワークが速くても、端末や中継装置の処理によって遅延が増える場合があります。

特にジッターバッファは、途切れを減らすために待ち時間を設けます。また、コーデックによっては処理対象の音声をためたり、先の標本を参照したりするため、通信以外の時間も必要です。

重複を除いた片方向遅延の内訳例。30+50+30+10=120 ms。実測値や推奨上限ではありません。
重複を除いた片方向遅延の内訳例。30+50+30+10=120 ms。実測値や推奨上限ではありません。

2. 片方向遅延とRTTは違う

片方向遅延はAからBまで、RTT(Round Trip Time)は往復にかかる時間です。ネットワークの測定値にはRTTが多く使われますが、往路と復路の経路や混雑状態が同じとは限りません。

RTTを2で割る計算は対称な経路を仮定した目安です。しかも、その測定が音声と同じ経路・処理を通るとは限りません。例えばICMPによる疎通の往復時間には、音声の符号化や再生バッファは通常含まれません。

3. 遅延予算を作る

設計では、端から端までの目標を決め、各段階にどれくらい時間を使うかを見積もります。例えば端末処理等30 ms、ネットワーク50 ms、受信バッファ30 ms、再生等10 msなら、合計は120 msです。各項目が重複しないよう定義した仮想例で、推奨設定値ではありません。

実際には、ある測定項目が別の項目を含んでいる場合があります。製品の「遅延」を足す前に測定の始点・終点を確認し、二重に加算しないようにします。平均値だけでなく、混雑時や経路切り替え後の変化も記録します。

受信側で生じる待ち時間については、ジッターバッファの待ち時間も確認してください。

4. 聞き取り品質と会話のしやすさを分ける

録音を一方的に聞く評価では音が明瞭でも、実際の会話では応答の遅さが問題になります。互いに話し始める、発話の切り替えで不自然な間ができる、といった状況は対話で確認する必要があります。

ITU-T G.114は片方向伝送時間を扱う資料ですが、一つの数値をすべての業務の合否境界として扱うべきではありません。必要な対話の速さ、利用者の期待、音声以外の処理も含めて目標を定めます。

音の聞き取りやすさと会話のしやすさを分けるには、MOSだけでは分からない会話品質も参考になります。

5. 測定方法を選ぶ

  • ネットワーク測定:経路の往復時間や変動を把握する。
  • 時刻を合わせた両端観測:時計の誤差を管理して片方向の伝送時間を調べる。
  • 音声の端から端までの測定:既知の信号を入力し、相手側の出力までを対応づける。

両端の時計が10 msずれていれば、片方向測定にもその分の誤差が入り得ます。何をどれだけ正確に測るかを決め、同期精度や取得位置を記録します。人が返事するまでの時間には反応時間も入るため、機器の遅延と分けます。

6. 改善後は途切れの増加も確認する

バッファを短くして遅延を下げても、遅着が増えれば音が途切れます。経路の短縮、不要な変換の削減、混雑の対処などを検討し、遅延と欠落を同時に評価します。

試験結果には片方向か往復か、測定範囲、音声方式、通常時と混雑時の分布を記載します。単位が同じ「ms」でも、異なる測定範囲の値をそのまま比べないことが重要です。

参考規格・資料

基準音声と実通話の比較、測定位置・方向を整理する際は、Software AGDによる音声品質評価をご覧ください。音声品質の測定範囲と評価方法を相談するから、自社の構成に合わせた確認範囲をご相談いただけます。

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